はじめに
訪問介護事業所は、労働法令に基づく適切な人事労務管理を行うだけでなく、介護事業関連法令が定める人員基準にも十分配慮しながら採用活動を進める必要があります。
もし雇用や採用に関する手続きや準備が不十分な場合、後々のトラブルに発展するリスクも否めません。
そこで本記事では、訪問介護事業所が新しいスタッフを採用する際に必要となる手続きを、Q&A形式で分かりやすく解説します。
スタッフを雇う際にまず何を準備すべきですか?
雇用前に以下の準備をしておきましょう。
- 雇用契約書または労働条件通知書(雇用条件を明確にするための重要書類)
- 就業規則(従業員10人以上の場合は作成・届出が必須。ただし、1人でも従業員を雇う場合は作成するのがベター)
- 職務内容の明確化(具体的な業務範囲を定義)
- 採用計画(必要な資格や経験をリストアップ)

採用後に提出が必要な法定手続きは何ですか?
採用後、以下の手続きを行う必要があります。
雇用保険の加入手続き
週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇用される見込みのあるスタッフが対象です。雇用した日の属する月の翌月10日までに、ハローワークへ「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。令和10年10月からは、週10時間以上のスタッフに対象が広がります。詳しくは「障害福祉サービス事業所の労働保険」で解説しています。
社会保険の加入手続き
正社員と、所定労働時間・所定労働日数が正社員の4分の3以上のスタッフは、健康保険と厚生年金保険に加入します。従業員51人以上の企業では、週の所定労働時間が20時間以上のパートも加入します(2026年10月から賃金要件は撤廃。最低賃金の減額特例の許可を受けている一部の人を除く)。入社日から5日以内に、年金事務所へ「被保険者資格取得届」を提出します。詳しくは「障害福祉サービス事業所の社会保険」で解説しています。
労働基準監督署への届出
常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ます。パートや登録ヘルパーも人数に含みます。また、法定労働時間を超えて働かせたり、法定休日に働かせたりする場合は、事前に36協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
採用後に備え付けておかなければならない帳簿にはどのようなものがありますか?
労働基準法上、法定三帳簿と呼ばれる以下の帳簿を作成しなければなりません。
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿
これらの帳簿や、雇入れ・退職・賃金に関する重要な書類は、5年間(当分の間は3年間)保存しなければなりません。
詳細は下記ページを参考にしてください。



介護事業特有の手続きはありますか?
訪問介護事業では、以下の点に注意が必要です。
資格確認
雇用するスタッフが介護福祉士や実務者研修修了者、初任者研修修了者など、必要な資格を保有していることを確認。
配置基準の遵守
サービスの種類に応じたスタッフ配置基準を満たすこと。
研修の実施
新規スタッフには雇入時の研修や業務内容・利用者への対応方法についての研修を行う。
雇入時の健康診断
常時使用する職員を雇い入れるときは、医師による健康診断を行わなければなりません。パート職員でも、期間の定めのない契約か、更新により1年以上の雇用が見込まれ、かつ週の所定労働時間が正社員の4分の3以上であれば対象です(4分の3未満でも、おおむね2分の1以上であれば実施が望ましいとされています)。深夜業を含む業務など特定業務に従事する人は、6か月以上の雇用見込みで対象になります。雇入れ前3か月以内に受けた健康診断の結果を提出してもらった場合は、その項目を省略できます。

雇用契約書・労働条件通知書には何を記載すべきですか?
雇用契約を結ぶときは、労働条件を明示しなければなりません。特に次の事項は、書面で交付する必要があります(本人が希望した場合は、電子メールなどでも構いません)。
すべての職員に書面で明示する事項
- 契約期間(期間の定めがあるかどうか、ある場合はその期間)
- 期間の定めがある場合、契約を更新する場合の基準(更新回数や通算期間に上限がある場合はその上限)
- 就業の場所と従事する業務(将来の変更の範囲を含む)
- 始業・終業の時刻、所定時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇
- 賃金の決定・計算・支払の方法、締切日・支払日
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
「変更の範囲」と「更新上限」は、2024年4月から明示が必要になった事項です。以前のひな形を使い続けている事業所は、見直しが必要です。
パート・有期雇用の職員に追加で明示する事項
- 昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無
- 正社員との待遇の違いについて説明を求めることができること
- 相談窓口
また、契約更新によって無期雇用への転換を申し込めるようになる職員には、その更新のときに、申込みができることと、転換後の労働条件も明示します。
登録ヘルパーの雇用契約で注意すること
登録ヘルパーは、訪問の予定に応じて働く日や時間帯が決まるため、契約書に勤務日や時間を書ききれないことがあります。この場合は、勤務日・時間帯は勤務表で定めることと、適用する就業規則の条項を示したうえで、契約時点の勤務表を交付する方法が認められています。
あわせて、次の時間の扱いを賃金の定めで明確にしておきましょう。厚生労働省の通達では、いずれも労働時間に当たるとされています。
- 移動時間:事業所から利用者宅、利用者宅から次の利用者宅への移動で、移動の自由がない時間
- 待機時間:急な依頼に備えて、事業所などでの待機を命じている時間
- 記録などの作成時間:サービス提供記録など、作成が義務付けられた書類を作成する時間
- 研修時間:事業所の指示で参加させる研修の時間
訪問1回ごとの単価で賃金を定めている場合は、これらの時間を含めた労働時間で割ったときに、最低賃金を下回らないかを確認する必要があります。
また、勤務表で勤務日・時間帯が決まった後に、利用者のキャンセルなど事業所側の事情で仕事がなくなった場合は、他の利用者宅での勤務など代わりの業務を提供できないか検討します。こうした最善の努力を尽くさず、事業所の責任による休業と判断される場合は、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。
労働条件通知書の記載例は、下記ページもご参照ください。

給与の支払いに関して気を付けるべき点は?
スタッフへの給与支払いでは以下の点を確認してください。
最低賃金の遵守
各都道府県の最低賃金を上回る給与を設定。
残業代の計算
時間外労働が発生した場合は法定通りの割増賃金を支払う。
給与明細の発行
毎月、控除内容を明記した給与明細を渡す。
雇用保険や社会保険の適用外スタッフへの対応は?
パートタイムスタッフや短時間勤務のスタッフが増える介護業界では、以下の対応が求められます。
週20時間未満の場合
雇用保険の対象外となるが、適正な労働条件を確保する。
労働契約の明確化
短時間勤務でも業務内容や勤務時間を明確にし、労働条件通知書や雇用契約書を作成。
スタッフの労働環境を整備するには?
スタッフの働きやすい環境を整えるため、以下のポイントを押さえましょう。
シフト管理
無理のない勤務スケジュールを組み、スタッフの負担を軽減。
職場の安全対策
業務中の事故防止のため、定期的なリスクアセスメントを実施。
メンタルヘルスケア
定期的な面談やストレスチェックを行い、スタッフの健康をサポート。
どのようにスタッフを定着させるべきですか?
離職を防ぎ、優秀なスタッフを定着させるために以下を心掛けましょう。
キャリアアップ支援
資格取得の費用補助やキャリアパスの提示。
適切な評価と報酬
成果や貢献度を正当に評価し、昇給や賞与で報いる。
コミュニケーションの活性化
意見を交換しやすい職場環境を作り、信頼関係を構築。
まとめ
訪問介護事業所がスタッフを雇用する際には、法定手続きや雇用契約の整備、労働環境の改善が欠かせません。
本記事で解説したポイントを押さえ、適切な雇用手続きを行うことで、事業の安定運営とスタッフの満足度向上を目指しましょう。
開業や雇用手続きについて不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。専門家がサポートいたします。
