障害福祉の処遇改善加算について、計画書提出後の期中管理と毎月の確認事項として、賃金改善額の記録、加算の入金・返戻確認、入退社時の見直し、変更届出・誓約管理を示した図解
処遇改善計画書を提出すると、ひとまず手続きが一段落したように感じられます。しかし、処遇改善加算で通知が求めているのは、年度を通じた賃金改善の実施と、その記録・報告です。
計画書の提出後、年度の途中で何も管理をしないまま実績報告の時期を迎えると、賃金改善額の集計ができない、計画と実績が合わない、誓約した取組が未実施のまま、といった問題が一度に表面化し、加算額の返還につながるおそれがあります。
本記事では、令和8年度の厚生労働省通知に沿って、計画書提出後に事業者に求められている事項と、それを確実に果たすための期中管理・毎月の確認事項を、時系列で解説します。
本記事の対象について
本記事は、障がい福祉サービスの処遇改善加算を対象としています。介護保険サービスの介護職員等処遇改善加算とは、根拠法令や運用が異なる部分があります。

1. 計画書提出後に通知が求めていること

まず、計画書の提出後、事業者に求められている事項を確認します。通知に定められている主な事項は、次のとおりです。

計画書提出後に求められている主な事項
求められている事項 内容
賃金改善の実施 加算の算定額に相当する賃金改善を、計画書に記載した方法により実施する。賃金改善が行われていない場合は、返還または加算取消の事由に該当する
賃金水準を低下させないこと 賃金改善の対象として特定した項目を含め、賃金水準を低下させない(処遇改善加算による賃金改善分を除く)。引き下げる場合は特別事情届出書の届出が必要
職員への周知・照会対応 賃金改善を行う方法等を処遇改善計画書を用いるなどにより職員に周知し、就業規則等の内容も周知する。職員から照会があった場合は書面を用いるなど分かりやすく回答する
根拠資料の保管・提示 計画書・実績報告書の記載内容の根拠となる資料を適切に保管し、指定権者から求めがあった場合には速やかに提示する
変更があった場合の届出 事業所の増減、加算区分の変更、キャリアパス要件への適合状況の変更、就業規則の改定(処遇に関する内容)等が生じた場合は、変更届出書(別紙様式4)を届け出る
誓約した取組の年度内実施 計画書で誓約した取組(職場環境等要件、キャリアパス要件等)を令和9年3月末までに実施し、実績報告書でその旨を報告する
実績報告書の提出 最終の加算の支払があった月の翌々月の末日(令和8年度分は通常、令和9年7月31日)までに実績報告書を提出し、根拠資料と併せて2年間保存する

出典:令和8年度通知本文(賃金改善の実施・賃金水準の維持・職員への周知・根拠資料の保管・変更届出書・誓約・実績報告書に関する各規定)をもとに作成。

通知上の義務と月次管理は区別して考えます
通知は、「毎月○○を確認すること」といった月次の作業自体を義務づけているわけではありません。通知が求めているのは、年度を通じた賃金改善の実施と、その結果の報告・記録です。

ただし、これらを年度末にまとめて果たすことは、実際には困難です。あらかじめ定めた支給時期に従って賃金改善を行い、その積み上げを実績報告書で報告する制度である以上、それぞれの支給と記録が正しく行われていなければ、年度末に取り返しがつきません。

そこで実務上、次章以降のような期中管理が必要になります。

2. 年間スケジュール(令和8年度)

計画書提出から実績報告までの、令和8年度の大きな流れは次のとおりです。

令和8年度の年間スケジュール
時期 対応事項
令和8年4月15日 処遇改善計画書の提出(4月・5月分と6月以降分をあわせて提出)
毎月
(年度を通じて)
計画に沿った賃金改善の実施状況の確認、支給時期に該当する月の支給内容の確認、加算の入金額・返戻の確認、賃金改善額の記録
職員の入退社時 新規入社者への処遇改善手当等の設定、雇用契約書等への反映、賃金改善見込額への影響確認
変更事由の発生時 変更届出書(別紙様式4)の届出。加算区分の変更等では体制の届出が必要となる場合があるため、指定権者に確認
令和9年3月末 計画書で誓約した取組の実施期限。実施記録・証跡の整備
令和9年7月31日
(通常の場合)
実績報告書の提出期限。根拠資料と併せて2年間保存
実績報告書の提出期限に注意してください
実績報告書の提出期限とされる令和9年7月31日は、土曜日に当たります。実際の提出期限・提出方法は、必ず各指定権者の案内をご確認ください。

3. 毎月の確認事項

年度を通じた管理の中心になるのが、毎月の確認です。ここに挙げる月次の確認は、通知で頻度が義務づけられているものではなく、通知上の義務を確実に果たすための実務上の運用です。

毎月の確認事項
確認事項 確認の内容
① 処遇改善手当等の支給確認 計画書で定めた賃金項目・対象職員・金額のとおりに支給されているかを、毎月の給与計算のタイミングで確認する。特に、新規入社者への設定漏れ、対象職員の変更の反映漏れに注意する
② 加算の入金額の把握 国民健康保険団体連合会から送付される通知(「処遇改善加算等総額のお知らせ」等)により、実際の加算額を把握・保管する。実績報告書の加算額は、この通知等に基づいて記入する
③ 返戻の有無の確認 請求が返戻されると、加算額が見込みとずれる。返戻の有無と再請求の状況を確認し、加算額の見込みに反映する
④ 賃金改善額の記録 実績報告書の賃金改善額は、各職員に対して行った賃金改善額を積み上げる等の適切な方法で算出することとされている。毎月、職員別の賃金改善額を記録しておくと、年度末にまとめて集計する負担がなくなる
期中管理表のすすめ
月ごとに「加算の入金額」と「職員別の賃金改善額」を並べて記録する管理表を作っておくと、加算額と賃金改善額の対応を常に把握でき、実績報告書の作成がそのまま楽になります。
管理表の様式に決まりはありません。自社の給与計算の流れに合わせて、無理なく続けられる形で作成してください。

4. 職員の入退社があったときの対応

年度の途中で職員の入退社があった場合は、賃金改善の設計に影響します。

新しく職員が入社したとき

計画書で定めた配分方法に沿って、処遇改善手当等の設定と、雇用契約書・労働条件通知書への反映を行います。

入社時の設定が漏れると、その職員への賃金改善が計画と食い違い、後から遡って調整する手間が生じます。入社手続きのチェック項目に、処遇改善手当等の設定を組み込んでおくことが有効です。

入社時に確認する事項

  • 処遇改善手当等の支給対象となるか
  • 支給する賃金項目と金額
  • 雇用契約書・労働条件通知書への記載
  • 給与計算システムへの設定

職員が退職したとき

退職者が出ると、その職員に予定していた賃金改善額が実施されなくなり、年度全体の賃金改善見込額が変わります。

賃金改善の実績額が加算額を下回らないか、年度の後半は特に、見込みの再確認が必要です。

職員構成が変わったとき

実績報告書では、前年度と当年度の賃金額を比較して、賃金水準が低下していないことを確認します。

職員の入退社等によって職員構成が変わった場合には、前年度の賃金額について、当年度の職員構成に合わせて調整した額を算出し、比較に用いることが可能とされています。

入退社の記録と各職員の賃金の推移を確認できるようにしておくと、前年度額の調整と賃金水準の確認が円滑になります。

5. 年度途中の変更と変更届出書

計画書の内容に変更があった場合は、変更届出書(別紙様式4)を届け出ます。

通知では、変更の対象となる事由として、次の事項が挙げられています。

  • 対象事業所の増減(新規指定・廃止等)
  • 加算区分の変更・新規算定
  • キャリアパス要件への適合状況の変更
  • 福祉・介護職員の処遇に関する就業規則の改定
就業規則を改定した場合の提出時期
このうち、就業規則の改定のみに該当する場合は、実績報告書を提出する際に、変更届出書をあわせて届け出ることができるとされています。
加算区分を変更する場合
加算区分を変更する場合には、変更届出書のほかに、体制に関する届出が必要となる場合があります。提出書類や提出期限について、指定権者の案内をご確認ください。

6. 誓約した取組の進捗管理

計画書で「令和9年3月末までに実施する」ことを誓約した取組(職場環境等要件の取組、キャリアパス要件の整備等)がある場合は、誓約が期限付きの約束であることを忘れないよう、進捗を管理します。

  • 誓約した取組を一覧にし、実施予定時期を決めておく
  • 実施したら、研修記録・議事録・規程の改定文書など、実施を証明する記録を残す
  • 年度末が近づいてから慌てないよう、遅くとも年明けには未実施の取組がないか確認する
  • 誓約した取組は、実績報告書でその旨を報告する
未実施のまま年度末を迎えないよう注意してください
誓約した取組を実施しないまま年度を終えると、要件不適合となり、返還または加算取消のリスクに直結します。

7. 加算の対象外のサービスを併せて運営している場合

処遇改善加算は、障害者総合支援法・児童福祉法に基づく障害福祉サービス等を対象とする報酬上の加算です。市町村が実施する地域生活支援事業(移動支援など)は、加算の対象サービスに含まれていません。

加算を算定していない事業所の職員
Q&Aでは、加算を算定していない事業所(加算の対象外サービスの事業所等を含む)の職員は、賃金改善の対象に含めることはできないとされています。

対象サービスと対象外サービスの両方を運営し、両方に従事する職員がいる事業所では、処遇改善手当の支給対象をどのように設計するか、判断を要する場面があります。

賃金規程等で支給対象の考え方を明文化するとともに、取扱いに迷う場合は指定権者に確認し、確認した内容を記録に残すことをおすすめします。

8. よくあるつまずき

期中管理で問題になりやすいのは、次のようなケースです。

① 新規入社者への手当設定漏れ

入社手続きの際に処遇改善手当等の設定が漏れ、計画と支給実績が食い違うケースです。

② 加算の入金額・返戻を把握していない

国保連からの通知を確認・保管しておらず、実績報告の段階で加算額の集計に手間取るケースです。返戻により加算額が見込みとずれていることに気づかないケースもあります。

③ 誓約した取組の失念

計画書で誓約した取組を実施しないまま年度末を迎えるケースです。要件不適合となり、返還リスクに直結します。

④ 変更届出書の失念

加算区分の変更やキャリアパス要件の適合状況の変更があったにもかかわらず、変更届出書を届け出ていないケースです。

⑤ 記録を年度末にまとめて作ろうとする

職員別の賃金改善額の記録や取組の証跡を残しておらず、実績報告の直前にまとめて再現しようとするケースです。正確な集計ができず、報告内容の信頼性にも関わります。

9. まとめ

計画書提出後の期中管理のポイントは、次のとおりです。

  • 通知が求めているのは、年度を通じた賃金改善の実施と、周知・記録・変更届出・実績報告
  • 月次の確認そのものは通知上の義務ではないが、義務を確実に果たすためには毎月の管理が実務上必要
  • 毎月、計画に沿った支給状況、加算の入金額・返戻、職員別の賃金改善額を確認・記録する
  • 職員の入退社時は、手当の設定・契約書への反映と、賃金改善見込額への影響を確認する
  • 変更事由が生じたら変更届出書を届け出る
  • 誓約した取組は令和9年3月末までに実施し、証跡を残して実績報告書で報告する
  • 加算の対象外サービスを併せて運営している場合は、手当の支給対象の設計に注意し、迷う場合は指定権者に確認する

処遇改善加算は、計画書の提出で完結する制度ではありません。あらかじめ定めた支給時期に従った賃金改善と、毎月の確認・記録の積み重ねが、そのまま年度末の実績報告と要件適合につながる制度です。

期中の管理体制を年度の早い段階で整えておくことが、返還リスクを防ぐ最も確実な方法です。

処遇改善加算の期中管理でお困りではありませんか
当事務所では、行政書士法人と社会保険労務士事務所を併設し、障がい福祉サービス事業所の処遇改善加算について、処遇改善計画書の作成・提出にとどまらず、毎月の支給確認・期中管理・変更届出・実績報告までを含めた継続的なご支援(顧問契約)を行っています。
計画書は提出したものの、その後の管理に不安がある事業所は、お気軽にご相談ください。