実績報告書

処遇改善加算は、計画書を提出して加算を取得して終わりではありません。

年度終了後に実績報告書を提出し、賃金改善の実施結果を指定権者に報告するところまでが、一連の流れとなります。

実績報告書の段階で、計画と実績の整合が取れていない、要件を満たしていないと判断されると、加算額の返還や処遇改善加算の取消につながるおそれがあります。

本記事では、令和8年度の厚生労働省通知およびQ&Aに記載されている内容に沿って、実績報告書の様式、提出期限、主な記載項目、賃金改善実績の算出、返還リスクを避けるために残しておくべき記録について解説します。

本記事は、障がい福祉サービスの処遇改善加算を対象としています。
介護保険サービスの介護職員等処遇改善加算とは、根拠法令や運用が異なる部分があります。

1. 実績報告書の提出期限と提出先

通知では、実績報告書の様式、提出先、提出期限、保存について、次のとおり定められています。

【表】実績報告書の提出概要(令和8年度)

項目 内容
様式 別紙様式3-1(総括表)および別紙様式3-2(個票)
提出先 都道府県知事等(指定権者)
原則の提出期限 各事業年度における最終の加算の支払があった月の翌々月の末日
令和8年度分の提出期限 通常の場合、令和9年7月31日
根拠資料の保存期間 2年間
押印の要否 押印は不要

通知では、各事業年度における最終の加算の支払があった月の翌々月の末日までに、別紙様式3-1および別紙様式3-2に定める様式により作成のうえ、都道府県知事等に対して提出し、根拠資料と併せて2年間保存することとされています。

令和8年度の実績報告書については、令和9年3月分の処遇改善加算の支払が令和9年5月となるため、通常の場合、令和9年7月31日が提出期限となります。

令和9年7月31日は土曜日に当たります。
実際の提出期限・提出方法については、必ず各指定権者の案内をご確認ください。
実務上は、余裕をもって前営業日までに提出できるよう準備しておくことをおすすめします。

複数の障害福祉サービス等事業所を有する事業者は、事業者(法人)単位で一括して作成して差し支えありません。

その場合も、各指定権者に対してそれぞれ期日までに届出が必要です。各指定権者に提出する内容は、「提出先」の項目以外は同一の内容で差し支えないとされています。

2. 実績報告書の様式と主な記載項目

実績報告書の様式は、別紙様式3-1(総括表)と別紙様式3-2(個票)に分かれています。

実績報告書の様式に記入する主な項目は、次のとおりです。

【表】別紙様式3-1の主な記載項目

項目 記載内容
基本情報 法人名・所在地・代表者、書類作成担当者の連絡先、提出先(指定権者)、対象事業所などを記載します。
① 加算額 令和8年度に実際に算定・支払を受けた加算額を記載します。国保連合会から送付される「処遇改善加算等総額のお知らせ」等に基づいて確認します。
② 賃金改善額 令和8年度の賃金改善額を記載します。賃金改善額は、①の加算額以上である必要があります。法定福利費等の事業主負担増加分を含めることができます。
増加加算額に対応する新規の賃金改善 令和7年度と比較して令和8年度に増加した加算額と、その原資による新たな賃金改善額を記載します。ベースアップによる額、その他の手当・一時金等による額を確認します。
賃金水準維持の確認 加算以外の部分で賃金水準を下げていないことを確認します。令和7年度の賃金額と令和8年度の賃金額を比較します。

※令和8年度通知の別紙様式3-1および基本情報入力シートをもとに作成。様式の正式な記入欄・記入上の注意は、厚生労働省が公表する様式を必ずご確認ください。

3. 賃金改善実績の算出方法

別紙様式3-1に記載する処遇改善加算による賃金改善の所要額については、具体的な算出方法は問わないとされています。

ただし、通知の様式の記入上の注意では、各職員に対し、処遇改善加算を原資として行った賃金改善額を積み上げる、つまり足し上げるなどの適切な方法により算出することとされています。

「賃金額」を記入する欄には、基本給、手当、賞与等を含む金額を記入します。ただし、退職手当は除きます。

法定福利費等の事業主負担増加分の取扱い

賃金改善には、賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担の増加分を含めることができるとされています。

Q&A問1-7では、賃金改善額に含めることができる法定福利費等の範囲について、次のとおり示されています。

  • 法定福利費(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、児童手当拠出金、雇用保険料、労災保険料等)における、処遇改善加算による賃金改善分に応じて増加した事業主負担分
  • 法人事業税における処遇改善加算による賃金上昇分に応じた外形標準課税の付加価値額増加分

法定福利費等の計算に当たっては、合理的な方法に基づく概算によることができるとされています。

任意加入とされている制度に係る増加分、たとえば退職手当共済制度等における掛金等は、賃金改善額には含まないものとされています。

4. 賃金水準を低下させていないことの確認

通知では、賃金改善は基本給・手当・賞与等のうち対象とする項目を特定して行うものとされています。

また、特定した項目を含め、賃金水準を低下させてはならないとされています。ただし、処遇改善加算による賃金改善分を除きます。

実績報告書では、加算以外の部分で賃金水準を下げていないことを確認する欄が設けられています。

前年度、つまり令和7年度の賃金額と、当年度である令和8年度の賃金額を比較し、賃金水準が低下していないことを確認します。

職員構成が変動した場合の取扱い

様式の記入上の注意では、職員構成が変わった等の事由により、今年度との比較に適した値に修正することが可能とされています。

たとえば、本年度に入職した職員と同等の賃金水準の職員が、前年度から在籍していたものと仮定して計算する方法や、本年度に退職した職員と同等の職員が前年度には在籍していなかったものと仮定して計算する方法などが考えられます。

特別事情届出書

事業の継続を図るために、職員の賃金水準を引き下げたうえで賃金改善を行う場合には、別紙様式5の特別な事情に係る届出書、いわゆる特別事情届出書を届け出ることとされています。

通知本文5(2)では、特別事情届出書に記載すべき事項として、次の事項が示されています。

  1. 処遇改善加算を算定している障害福祉サービス等事業所の法人の収支について、サービス利用者数の大幅な減少等により経営が悪化し、一定期間にわたって収支が赤字である、資金繰りに支障が生じる等の状況にあることを示す内容
  2. 福祉・介護職員等の賃金水準の引き下げの内容
  3. 当該法人の経営および福祉・介護職員等の賃金水準の改善の見込み
  4. 福祉・介護職員等の賃金水準を引き下げることについて、適切に労使の合意を得ていること等の必要な手続きに関する、労使の合意の時期および方法等

Q&A問1-14では、賃金改善のために一部の賃金項目を引き上げても、事業の継続のために賃金全体としての賃金水準が引き下げられた場合は、特別事情届出書の提出が必要とされています。

一方で、賃金全体の水準が引き下げられていなければ、個々の賃金項目の水準が低下した場合であっても、特別事情届出書の提出は必要ないとされています。

また、Q&A問1-15では、一部の職員の賃金水準を引き下げても、事業所等の職員全体の賃金水準が低下していない場合は、特別事情届出書の提出は不要とされています。

ただし、一部の職員の賃金水準引下げは、不利益変更に当たると考えられます。
そのため、合理的な理由に基づき、適切に労使の合意を得る必要があります。

5. 要件を満たさない場合の取扱い|返還または取消

通知本文7では、処遇改善加算の停止について、次のとおり定められています。

都道府県知事等は、処遇改善加算を取得する障害福祉サービス事業者等が一定の事由に該当する場合、既に支給された処遇改善加算の一部または全部を不正受給として返還させること、または処遇改善加算を取り消すこととされています。

【表】返還または加算取消の事由(通知本文7)

区分 内容
(1) 処遇改善加算の算定額に相当する賃金改善が行われていない、賃金水準の引下げを行いながら特別事情届出書の届出が行われていない等、大臣基準告示および本通知に記載の算定要件を満たさない場合
(2) 虚偽または不正の手段により加算を受けた場合

つまり、加算額に相当する賃金改善が行われていない場合、賃金水準を引き下げながら特別事情届出書を届け出ていない場合、その他通知に記載の算定要件を満たさない場合、虚偽・不正により加算を受けた場合のいずれかに該当すると、返還または加算の取消の対象となります。

6. 根拠資料の保管

通知本文4(3)では、実績報告書は、根拠資料と併せて2年間保存することとされています。

また、通知本文9では、実績報告書の内容を証明する資料について、次のとおり示されています。

処遇改善計画書および実績報告書の内容を証明する資料は、障害福祉サービス事業者等が適切に保管していることを確認し、都道府県等からの求めがあった場合には速やかに提出することが必要です。
一方で、届出時に全ての障害福祉サービス事業者等から一律に添付を求めてはならないこととされています。

通知本文6では、処遇改善加算を算定しようとする事業者は、計画書の提出に当たり、記載内容の根拠となる資料および次の書類を適切に保管し、都道府県知事等から求めがあった場合には速やかに提示しなければならないとされています。

  • 労働基準法第89条に規定する就業規則等
  • 賃金・退職手当・臨時の賃金等に関する規程
  • キャリアパス要件Ⅰに係る任用要件および賃金体系に関する規程
  • キャリアパス要件Ⅲに係る昇給の仕組みに関する規程
  • 労働保険に加入していることが確認できる書類

これらに加え、実績報告の根拠となる資料として、次のような資料を整えておくと、指定権者からの求めに速やかに対応できます。

【表】根拠資料として整えておくことが考えられる資料の例

区分 資料の例
就業規則・賃金規程 就業規則、賃金規程、退職手当・臨時の賃金等に関する規程、キャリアパス要件Ⅰに係る任用要件・賃金体系に関する規程、キャリアパス要件Ⅲに係る昇給の仕組みに関する規程
労働保険関係 労働保険関係成立届、労働保険概算・確定保険料申告書等
賃金改善実績の算出根拠 賃金台帳、給与明細、処遇改善加算の配分計算書、法定福利費等の概算計算資料
計画書関連 処遇改善計画書、変更届出書、特別事情届出書(該当する場合)
加算額関連 国保連合会から送付される「処遇改善加算等総額のお知らせ」「処遇改善加算等内訳のお知らせ」
職員への周知関連 計画書の周知記録、就業規則等の周知記録、職員からの照会への回答資料
要件適合関連 職場環境等要件の取組実施を証明する資料、研修記録、議事録等

上記は、通知・Q&Aで明示的に保管が求められている資料、および実績報告書の記入内容を裏付けるために実務上整えておくことが考えられる資料をまとめたものです。具体的に整えるべき資料は、自社の運用状況や指定権者の運用に応じて確認してください。

7. 賃金改善方法の職員への周知と照会対応

通知本文8では、処遇改善加算を算定する事業者について、次のとおり定められています。

  • 処遇改善加算を算定する障害福祉サービス事業者等は、当該事業所における賃金改善を行う方法等について、処遇改善計画書を用いるなどにより職員に周知するとともに、就業規則等の内容についても職員に周知すること
  • 職員から処遇改善加算に係る賃金改善に関する照会があった場合は、当該職員の賃金改善に係る内容について、書面を用いるなど分かりやすく回答すること

実績報告書を提出する段階で、これらの周知や照会対応が適切に行われていなかったことが判明すると、要件を満たしていないと判断されるおそれがあります。

職員への周知の事実や、職員からの照会に対する回答内容は、記録として残しておくことが望ましいです。

8. 変更届出書(別紙様式4)

年度の途中で計画書の内容に変更があった場合は、別紙様式4の変更届出書を届け出る必要があります。

通知本文5(1)では、変更届出書の対象となる事由として、たとえば次のようなものが挙げられています。

  • 複数事業所の増減(新規指定・廃止等)
  • キャリアパス要件への適合状況の変更
  • 加算区分の変更・新規算定
  • 就業規則の改定(福祉・介護職員の処遇に関する内容)

また、就業規則の改定など、一定の変更事由のみに該当する場合は、実績報告書を提出する際に、変更届出書を併せて届け出ることができるとされています。

9. 計画段階からの一貫設計が返還リスクを防ぐ

実績報告書の段階で要件を満たしていないことが判明すると、加算の一部または全部の返還、加算の取消につながります。

実績報告で問題を生じさせないためには、計画段階から、実績報告で求められる事項を踏まえた設計を行うことが重要です。

計画段階で押さえておくべきポイント

  • 計画書の賃金改善見込額が、加算見込額以上となっていること
  • 月額賃金改善要件、つまり加算Ⅳ相当額の2分の1以上を基本給等で改善する設計になっていること
  • 配分対象者・配分項目・支給時期が明確になっていること
  • 賃金規程・給与計算・賃金台帳と整合する設計になっていること
  • 計画書の内容を職員に周知し、周知の事実を記録に残すこと
  • 誓約した取組、たとえばキャリアパス要件・職場環境等要件を年度内に実施し、記録を残すこと

10. よくある不備

実績報告書の場面で問題になりやすいのは、次のようなケースです。

① 賃金改善実績額が加算額を下回る

別紙様式3-1の②賃金改善額が、①加算額を下回る場合、加算の算定要件を満たさないことになり、返還または取消の対象となります。

法定福利費等の事業主負担増加分を含めて算出することはできますが、その場合も合理的な計算根拠を残しておく必要があります。

② 月額賃金改善要件を満たしていない

加算Ⅳ相当額の2分の1以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当の改善に充てる、という要件を満たしていないケースです。

賞与・一時金による支給が中心となり、基本給または決まって毎月支払われる手当による改善額が不足していないか、計画段階から確認しておく必要があります。

③ 賃金水準を引き下げているのに特別事情届出書が未提出

賃金水準を引き下げたにもかかわらず、特別事情届出書を届け出ていないケースは、返還または取消の事由に直接該当します。

④ 計画書と実績の不整合

たとえば、計画書では基本給で改善するとしていたのに実際は一時金で支給した、配分対象に含めるとした職員が実績で対象外になっている、など計画と実績が一致しないケースです。

⑤ 根拠資料が整っていない

指定権者から求めがあったときに、計画書や実績報告書の内容を裏付ける資料を速やかに提示できない場合、要件適合の確認ができず、結果として要件不適合と判断されるおそれがあります。

実績報告で求められる資料は、年度終了後に慌てて整えるものではありません。
賃金台帳、配分計算書、就業規則、周知記録などは、年度内の運用段階から保存しておくことが重要です。

11. まとめ

実績報告書のポイントをまとめると、次のとおりです。

  • 実績報告書は、別紙様式3-1および3-2により作成し、最終の加算の支払があった月の翌々月の末日までに指定権者に提出する
  • 令和8年度分は、通常の場合、令和9年7月31日が提出期限となる
  • 賃金改善額は、加算額以上であることが必要である
  • 法定福利費等の事業主負担増加分を賃金改善額に含めることができる
  • 賃金改善額の算出は、各職員に対し処遇改善加算を原資として行った賃金改善額を積み上げる等の適切な方法による
  • 加算以外の部分で賃金水準を低下させていないことを確認する
  • 賃金水準を引き下げて賃金改善を行う場合は、特別事情届出書を提出する
  • 要件を満たさない場合、虚偽・不正の場合は、返還または加算取消の対象となる
  • 実績報告書は根拠資料と併せて2年間保存する
  • 指定権者から求めがあった場合は、速やかに根拠資料を提示できるようにしておく
  • 賃金改善方法・就業規則の内容を職員に周知し、照会には書面で分かりやすく回答する

実績報告書は、年度終了後にまとめて作成するというよりも、計画段階で設計した内容を年度内に確実に実施し、その記録を整えていく過程の集大成です。

返還リスクを防ぐためには、計画書・賃金規程・給与計算・職員説明・実績報告までを一貫して設計しておくことが重要です。

当事務所では、行政書士法人と社会保険労務士事務所を併設し、障がい福祉サービス事業所の処遇改善加算について、計画書の作成・提出、年度内の運用支援、実績報告書の作成・提出、根拠資料の整備までを一連の業務としてご支援しています。
実績報告書の作成や記録の残し方にご不安がある場合は、お気軽にご相談ください。