処遇改善加算の3つの要件のうち、職場環境等要件は、すべての加算区分に共通して求められる要件です。
6つの区分、合計28項目の取組の中から、加算区分に応じた数の取組を選んで実施することが求められます。
この要件は、計画書に取組項目をチェックして申請するだけでは足りません。
選んだ取組を実際に行い、それを証明できる記録を残しておくことが、指導検査等で問われる重要なポイントになります。
記録が不十分だと、要件を満たしていないと判断され、加算額の返還につながるおそれもあります。
本記事では、令和8年度の厚生労働省通知とQ&Aに沿って、職場環境等要件の全体像、加算区分ごとの取組数、取組の選び方、そして指導検査等に耐える記録整備の考え方を解説します。
介護保険サービスの介護職員等処遇改善加算とは根拠法令が異なり、内容が一致しない部分があります。
1. 職場環境等要件とは
職場環境等要件とは、職員が働きやすい職場づくりに資する取組を実施することを求める要件です。
取組は、次の6区分、合計28項目で構成されています。
- 入職促進に向けた取組
- 資質の向上やキャリアアップに向けた支援
- 両立支援・多様な働き方の推進
- 腰痛を含む心身の健康管理
- 生産性向上のための取組
- やりがい・働きがいの醸成
職場環境等要件は、加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳのいずれを取得する場合でも必要です。
ただし、加算区分により、満たすべき取組の数が異なります。
2. 職場環境等要件の6区分28項目
令和8年度通知の表3に定められた職場環境等要件の28項目は、次のとおりです。
【表】職場環境等要件 6区分28項目(令和8年度)
| 区分 | 分類 | 取組項目 |
|---|---|---|
| ①〜④ | 入職促進に向けた取組 |
|
| ⑤〜⑧ | 資質の向上やキャリアアップに向けた支援 |
|
| ⑨〜⑬ | 両立支援・多様な働き方の推進 |
|
| ⑭〜⑰ | 腰痛を含む心身の健康管理 |
|
| ⑱〜㉔ | 生産性向上のための取組 |
|
| ㉕〜㉘ | やりがい・働きがいの醸成 |
|
出典:厚生労働省「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」表3をもとに、表現を簡潔にして作成。正式な文言は通知の表3をご確認ください。
3. 加算区分ごとに必要な取組数
職場環境等要件では、加算区分により、各区分で実施すべき取組の数が異なります。
令和8年度通知に基づく取組数は、次のとおりです。
【表】加算区分別の必要取組数(令和8年度)
| 項目 | 加算Ⅰ・Ⅱ (イ・ロ含む) |
加算Ⅲ・Ⅳ |
|---|---|---|
| 生産性向上を除く5区分 | 各区分2以上 | 各区分1以上 |
| 生産性向上のための取組 (⑱〜㉔) |
3以上 ⑱は必須 |
2以上 |
| 全体の取組数 | 全体で14以上 | 全体で8以上 |
| 外部公表の見える化要件 | 必要 | 不要 |
加算Ⅰ・Ⅱ、令和8年6月以降はⅠイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロを取得する場合は、生産性向上を除く5区分について各2以上の取組が必要です。
さらに、生産性向上のための取組から3以上を実施し、そのうち⑱「現場の課題の見える化」は必ず実施する必要があります。
全体では、14以上の取組が必要です。
加算Ⅲ・Ⅳを取得する場合は、生産性向上を除く5区分について各1以上、生産性向上のための取組から2以上、全体で8以上の取組を行います。
1法人で1つの施設または事業所のみを運営するような小規模事業者については、㉔「委員会の共同設置・共同購入等、協働化を通じた職場環境改善の取組」を実施していれば、生産性向上のための取組の要件を満たすものとして取り扱われます。
4. 取組の選び方
28項目の中からどの取組を選ぶかは、要件を満たす限り、事業所の実情に応じて選択できます。
ただし、実務上は、次の観点で選ぶと、無理なく要件を満たし、記録も残しやすくなります。
① すでに実施していることから拾う
健康診断の実施、有給休暇の取得促進、職員面談、ミーティングによる情報共有など、すでに日常的に行っている取組が、そのまま職場環境等要件に該当することは少なくありません。
新たに何かを始めるより先に、現状の取組を棚卸しして、該当する項目を拾い出すことが出発点になります。
② 記録に残しやすい取組を優先する
この要件で最も重要なのは、実施したことを記録で証明できるかです。
口頭の取組や、記録の残らない取組は、実施していても指導検査等で証明しにくくなります。
研修、規程の整備、会議、面談、ICT機器の導入など、証跡が自然に残る取組を優先的に選ぶと、後の記録整備がしやすくなります。
チェック項目だけを先に選び、後から記録を探す運用は、不備につながりやすくなります。
③ 加算Ⅰ・Ⅱでは⑱「現場の課題の見える化」が必須
加算Ⅰ・Ⅱを取得する場合、生産性向上のための取組のうち、⑱「現場の課題の見える化」は必ず実施する必要があります。
業務時間調査や課題の洗い出しなど、まず現場の課題を見える化したうえで、他の生産性向上の取組につなげる流れが想定されています。
ここでいう「見える化」は、外部公表の見える化要件とは別のものです。
加算Ⅰ・Ⅱでは、⑱の実施と、後述する取組内容の外部公表の両方に注意する必要があります。
5. 申請時点で未実施でもよい場合がある|令和8年度の誓約による取扱い
令和8年度においては、職場環境等要件の取組について、計画書の提出時点ですべて実施済みであることまでは求められない場合があります。
通知上、一定の場合には、処遇改善計画書で令和9年3月末までに職場環境等要件に係る取組を行うことを誓約すれば、申請時点から職場環境等要件を満たしているものとして取り扱われます。
特に、令和8年度特例要件との関係があるため、実際に誓約で申請できるかどうかは、必ず計画書様式および各指定権者の案内を確認してください。
誓約した取組は、令和9年3月末までに必ず実施し、実績報告書でその旨を報告する必要があります。
誓約したまま実施しなかった場合は、要件不適合となり、返還リスクにつながります。
誓約は「先送り」ではなく、「年度内に必ず実施する約束」である点に注意が必要です。
6. 見える化要件|加算Ⅰ・Ⅱのみ
加算Ⅰ・Ⅱ、令和8年6月以降はⅠイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロを取得する場合は、職場環境等要件として実施する取組を、外部に公表する「見える化」が求められます。
公表方法としては、主に次の方法が想定されています。
- 障害福祉サービス等情報公表制度を活用して、取組項目および具体的な取組内容を記載する
- 自社ホームページに、職場環境等要件として実施している取組を掲載する
加算Ⅲ・Ⅳでは、この外部公表としての見える化要件は求められません。
ただし、加算Ⅲ・Ⅳであっても、取組を実施したことを証明する資料は、指導検査等に備えて保存しておく必要があります。
7. 指導検査等に耐える記録整備
職場環境等要件で実務上もっとも重要なのが、実施した取組を証明する記録、いわゆる証跡の整備です。
Q&Aでは、各取組の対応状況について一律に資料提出を求めるものではないとされています。
もっとも、指定権者から求めがあった場合には速やかに提出できるよう、根拠資料を用意しておく必要があります。
また、根拠資料の保存期間は2年間とされています。
どの取組について、どのような資料が証跡になるかを、区分ごとに整理すると次のとおりです。
これらは実務上の一例であり、自社の取組の実態に合わせて準備してください。
【表】取組区分別の記録(証跡)の例
| 区分 | 証跡として考えられる資料の例 |
|---|---|
| 入職促進 | 経営理念・人材育成方針を定めた文書、採用基準の規程、求人票、職業体験の受入記録、地域行事参加の記録・写真 |
| 資質向上・キャリアアップ | 年間研修計画、研修の案内、受講記録、修了証、キャリア面談の記録、人事考課規程、資格取得支援の規程・支給記録 |
| 両立支援・多様な働き方 | 育児・介護休業規程、短時間正社員規程、有給休暇の取得目標を定めた文書、取得状況の一覧、勤務シフト表 |
| 腰痛・心身の健康管理 | 相談窓口の設置を示す文書・掲示、健康診断・ストレスチェックの実施記録、腰痛対策研修の記録、事故対応マニュアル |
| 生産性向上 | 業務時間調査の結果、5S活動の記録・写真、業務手順書、ICT機器・業務支援ソフトの導入記録・契約書・操作マニュアル |
| やりがい・働きがい | ミーティングの議事録、地域交流の記録・写真、理念研修の記録、好事例を共有した会議録や掲示物 |
上記は、あくまで実務上考えられる証跡の例です。
通知・Q&Aは「取組の実施を証明する資料」を求めており、資料の様式までは定めていません。
自社の取組内容に即して、実施の事実が客観的に分かる資料を残すことが重要です。
記録整備のポイント
- 取組を「いつ・誰が・何を行ったか」が分かる形で残す
- 日付、対象者、実施内容、実施場所を記録する
- 誓約で申請した取組は、令和9年3月末までの実施記録を必ず残す
- 規程・マニュアル類は、改定日や施行日が分かるようにしておく
- 根拠資料は2年間保存し、指定権者の求めに即応できるようにする
8. よくある不備と指摘リスク
指導検査等や実績報告の場面で問題になりやすいのは、次のようなケースです。
① 計画書にチェックしたが、実施記録がない
取組項目を選択して申請したものの、実施を証明する資料が残っていないケースです。
実際に取組を行っていても、記録がなければ、後から証明することが困難になります。
② 誓約した取組を年度内に実施しなかった
令和9年3月末までの実施を誓約したまま、実施・報告を怠ったケースです。
この場合、要件不適合となり、返還リスクにつながります。
③ 加算Ⅰ・Ⅱで⑱を実施していない
加算Ⅰ・Ⅱでは、生産性向上のための取組を3つ以上実施する必要があります。
そのうち、⑱「現場の課題の見える化」は必須です。
生産性向上の取組を3つ選んでいても、⑱を含めていなければ要件を満たしません。
④ 加算Ⅰ・Ⅱで外部公表の見える化を行っていない
取組は実施しているものの、障害福祉サービス等情報公表システムや自社ホームページで公表していないケースです。
加算Ⅰ・Ⅱでは、取組の実施だけでなく、外部から見える形で公表することも求められます。
加算Ⅰ・Ⅱでは、両方を満たしているかを確認する必要があります。
9. まとめ
職場環境等要件のポイントを整理すると、次のとおりです。
- 職場環境等要件は、6区分28項目の取組で構成される
- 加算Ⅰ・Ⅱは、生産性向上を除く5区分で各2以上、生産性向上で3以上、全体で14以上の取組が必要
- 加算Ⅰ・Ⅱでは、生産性向上の取組のうち⑱「現場の課題の見える化」が必須
- 加算Ⅲ・Ⅳは、生産性向上を除く5区分で各1以上、生産性向上で2以上、全体で8以上の取組が必要
- 令和8年度は、一定の場合に、令和9年3月末までの実施を誓約して申請できる
- 加算Ⅰ・Ⅱでは、取組内容の外部公表としての見える化要件も必要
- 取組の実施を証明する根拠資料は、指定権者の求めに応じて提出できるよう保存する
- 根拠資料の保存期間は2年間とされている
取組の選択そのものは、決して難しいものではありません。
しかし、指導検査等で問われるのは、「実施したことを記録で示せるか」です。
計画段階から、記録に残しやすい取組を選び、証跡を整える設計にしておくことが、返還リスクを防ぐうえで重要です。
職場環境等要件の選び方や記録の残し方にご不安がある場合は、お気軽にご相談ください。


