キャリアパス要件1

処遇改善加算のキャリアパス要件のうち、キャリアパス要件Ⅰは、職員の職位・職責・職務内容と、それに応じた賃金体系を整備し、就業規則等に明記して全ての福祉・介護職員に周知することを求める要件です。

行動援護・居宅介護などの障がい福祉サービスで処遇改善加算を算定するうえで、基礎となる重要な要件です。

要件の内容自体はシンプルですが、実際に就業規則・賃金規程にどう落とし込むかでつまずく事業所は少なくありません。

本記事では、令和8年度の厚生労働省通知に沿って、キャリアパス要件Ⅰの内容と、行動援護・居宅介護を行う事業所をイメージした落とし込みの手順を解説します。

本記事は、障がい福祉サービスの処遇改善加算を対象としています。
介護保険サービスの介護職員等処遇改善加算とは、根拠法令や運用が異なる部分があります。

1. キャリアパス要件Ⅰとは

通知では、キャリアパス要件Ⅰは次の3つの要素をすべて満たすこととされています。

【表1】キャリアパス要件Ⅰの3つの要素

要素 内容
一 任用要件 職員の任用の際における職位、職責、職務内容等に応じた任用等の要件(職員の賃金に関するものを含む)を定めていること
二 賃金体系 一に掲げる職位、職責、職務内容等に応じた賃金体系(一時金等の臨時的に支払われるものを除く)について定めていること
三 書面整備・周知 一および二の内容について就業規則等の明確な根拠規程を書面で整備し、全ての福祉・介護職員に周知していること

出典:令和8年度通知本文をもとに作成。

要約すると、キャリアパス要件Ⅰは、次の3点で構成されています。

  1. 職位・職責・職務内容に応じた任用要件を定めること
  2. それに応じた賃金体系を定めること
  3. これらを就業規則等に書面で整備し、全ての福祉・介護職員に周知すること
キャリアパス要件Ⅰには、昇給に関する内容は含まれません。
経験・資格・評価に応じて昇給する仕組みは、キャリアパス要件Ⅲで求められる別の要件です。
要件Ⅰは「職位とそれに応じた賃金の整備」、要件Ⅲは「昇給の仕組み」と区別して理解する必要があります。

2. 要素1:職位・職責・職務内容(任用要件)の設計

まず、福祉・介護職員の職位、職責、職務内容を定めます。

通知では、福祉・介護職員の職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と、それに応じた賃金体系を定めることが求められています。

そのため実務上は、職員のキャリアの段階が分かるよう、複数の職位を設けて整えるのが一般的です。

ここで注意したいのは、管理者やサービス管理責任者など、指定基準上配置が求められる職種を記載するだけでは、職員のキャリアの段階や職責の違いを示す職位の整理としては不十分と考えられる点です。
これらの配置とは別に、初級・中級・上級など、職員の役割や成長段階に応じた職位を設けることが実務上は望ましいといえます。

職位の名称は、法人独自のもので構いません。

行動援護・居宅介護を行う事業所をイメージすると、たとえば次のような職位設計が考えられます。

【表】職位・職責・任用要件の設計例(行動援護・居宅介護事業所のイメージ)

職位(例) 職責・職務内容(例) 任用要件(例)
上級ヘルパー 支援の中心的役割、新任職員への指導、支援記録の確認 実務経験おおむね5年以上、上位資格の取得等
中級ヘルパー 担当利用者の支援、支援記録の作成 実務経験おおむね2年以上等
初級ヘルパー 上位職員の指導のもとでの支援 所定の研修修了等

上記はあくまでも例示です。職位の数・名称・職責・任用要件は、自社の規模や職員構成、サービスの実態に合わせて作成してください。

パートタイム職員の職責設計の留意点

パートタイム職員を含めて職位・職責を設計する場合は、就業規則上のパートタイム職員の位置づけと矛盾しないかを確認する必要があります。

たとえば、就業規則でパートタイム職員を「補助的な業務に従事する者」などと定義している場合に、キャリアパス上はパートタイム職員の職責として「事業所運営の統括」「管理者の代行」など重い職責を記載してしまうと、就業規則の定義と整合しないことになります。

職位・職責の設計は、就業規則の他の条項、特にパートタイム職員や有期雇用職員の位置づけと突き合わせて、矛盾が生じないようにすることが重要です。

3. 要素2:職位に応じた賃金体系の整備

次に、設計した職位に応じた賃金体系を定めます。

職位に応じて給与表を分ける、あるいは上位職位に役職手当を付けるなどの方法により、上位の職員を賃金で評価し、各職位に対応する賃金を明示します。

賃金体系は、一時金等の臨時的に支払われるものを除くとされています。

そのため、賞与など臨時的なものではなく、職位に応じた基本給や毎月の手当で賃金を明示する必要があります。

【表】職位に応じた賃金体系の例(行動援護・居宅介護事業所のイメージ)

職位(例) 基本給の範囲(例) 役職手当(例)
上級ヘルパー ○○円〜○○円 ○○円
中級ヘルパー ○○円〜○○円 ○○円
初級ヘルパー ○○円〜○○円 なし

上記はあくまでも例示です。基本給の範囲や役職手当の額は、自社の賃金水準や経営状況に合わせて設定してください。

重要なのは、職位が上がると賃金も上がる構造になっていることが、賃金規程の上で読み取れることです。
上位職位に役職手当を設ける方法であれば、各職位と役職手当の額の対応を賃金規程に明記します。

4. 要素3:就業規則・賃金規程への書面整備と周知

設計した職位・職責・任用要件と賃金体系は、就業規則、賃金規程(給与規程)等に書面で明記します。

通知では、就業規則等の明確な根拠規程を書面で整備することとされています。

なお、就業規則とは別に、キャリアパス表等で定めても構わないとされています。

就業規則本体に職位と賃金の対応を細かく書き込むのが難しい場合は、就業規則・賃金規程から参照する形でキャリアパス表を整備する方法も考えられます。

就業規則の作成義務がない事業所の取扱い

常時雇用する者の数が10人未満の事業所など、労働法規上の就業規則の作成義務がない事業所では、就業規則の代わりに内規等の整備・周知により要件を満たすこととしても差し支えないとされています。

小規模な行動援護・居宅介護事業所では、この取扱いに当てはまる場合があります。

職員への周知

通知上は、整備した内容を全ての福祉・介護職員に周知することが求められています。

就業規則・賃金規程・キャリアパス表を職員がいつでも確認できる状態にする、説明の機会を設けるなどの方法で周知し、周知した事実を記録に残しておくことが望ましいといえます。

実務上は、処遇改善加算の対象となる職員や賃金改善の内容に関係する職員が確認できるよう、周知の範囲と記録を明確にしておくことが望まれます。

5. 令和8年度の誓約による取扱い

令和8年度においては、計画書の提出時点で職位・職責の要件や賃金体系の整備が完了していない場合でも、令和9年3月末までに整備することを誓約することで、申請時点からキャリアパス要件Ⅰを満たしているものとして取り扱われる場合があります。

ただし、キャリアパス要件Ⅰの誓約による取扱いは、令和8年度特例要件を満たす事業所に限るとされています。
誓約した場合は、令和9年3月末までに定めを整備し、実績報告書でその旨を報告する必要があります。
誓約で申請できるかどうかは、必ず計画書様式および各指定権者の案内をご確認ください。

6. 落とし込みの実務ステップ

キャリアパス要件Ⅰを就業規則・賃金規程に落とし込む際の、実務的な手順を確認します。

  1. 現状の職員構成と職務内容の確認
    現在の職員が、どのような経験・資格を持ち、どのような役割を担っているかを確認します。
  2. 職位・職責・任用要件の設計
    複数の職位を設け、各職位の職責・職務内容と、就くための任用要件(経験・資格等)を定めます。管理者・サービス管理責任者などの指定基準上の配置とは別に設計します。
  3. 職位に応じた賃金体系の設計
    各職位に対応する基本給の範囲または役職手当を定め、職位が上がると賃金が上がる構造を明確にします。
  4. 就業規則・賃金規程・キャリアパス表への明記
    設計した内容を就業規則・賃金規程に明記します。就業規則の他の条項、特にパートタイム職員の定義等と矛盾がないか確認します。
  5. 職員への周知と記録
    整備した内容を全ての福祉・介護職員に周知し、周知の事実を記録に残します。

7. よくある不備

キャリアパス要件Ⅰで問題になりやすいのは、次のようなケースです。

① 指定基準上の配置職種のみを記載している

指定基準上配置する管理者・サービス管理責任者などの職種を記載しただけで、職員のキャリアの段階や職責の違いを示す職位の整理ができていないケースです。

指定基準上の配置とは別に、職員の役割や成長段階に応じた職位を設けることが望まれます。

② 職位はあるが、賃金との対応が明示されていない

職位は定めているものの、職位に応じた賃金、たとえば給与表の区分や役職手当が賃金規程に明示されておらず、職位と賃金の対応が読み取れないケースです。

③ 就業規則の他の条項と矛盾している

キャリアパス上の職責の記載が、就業規則のパートタイム職員の定義などと矛盾しているケースです。

規程全体の整合性を確認する必要があります。

④ 周知していない、周知の記録がない

整備はしたものの、職員への周知が行われていない、または周知の記録が残っていないケースです。

キャリアパス要件Ⅰは、書面を作成するだけでは足りません。
職位・職責・賃金体系を整備したうえで、全ての福祉・介護職員に周知し、その記録を残しておくことが重要です。

8. まとめ

キャリアパス要件Ⅰのポイントをまとめると、次のとおりです。

  • キャリアパス要件Ⅰは、任用要件、賃金体系、就業規則等への書面整備と全ての福祉・介護職員への周知の3要素で構成される
  • 任用要件では、職位・職責・職務内容等に応じた内容を定める
  • 賃金体系では、職位に応じた給与表や役職手当などにより、各職位と賃金の対応を明示する
  • 賃金体系は、一時金等の臨時的なものではなく、基本給や毎月の手当などで整備する
  • 昇給の仕組みは、キャリアパス要件Ⅰではなく、キャリアパス要件Ⅲで求められる
  • 就業規則・賃金規程・キャリアパス表に明記し、全ての福祉・介護職員に周知する
  • 10人未満で就業規則作成義務のない事業所は、内規等の整備・周知でも可
  • 令和8年度の誓約による取扱いは、令和8年度特例要件を満たす事業所に限る

キャリアパス要件Ⅰは、職位と賃金の対応を整備し、それを就業規則等に明記して周知する、という人事制度の基礎です。

特に、職位・職責の設計が就業規則の他の条項と矛盾しないよう、規程全体の整合性を確保することが、後の指導検査でも問われるポイントになります。

当事務所では、行政書士法人と社会保険労務士事務所を併設し、障がい福祉サービス事業所の処遇改善加算について、就業規則・賃金規程・キャリアパス表の整備から、処遇改善計画書の作成・提出、実績報告までを一連の業務としてご支援しています。
キャリアパス要件Ⅰの就業規則・賃金規程への落とし込みにご不安がある場合は、お気軽にご相談ください。

本記事の職位・賃金体系の例はあくまでも例示であり、具体的な制度設計は自社の実態に合わせて行ってください。具体的な判断は、必ず最新の通知および各指定権者の案内をご確認いただくか、当事務所へご相談ください。