処遇改善加算のキャリアパス要件のうち、キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施等)は、職員の資質向上の目標と具体的な計画を策定し、その計画に基づいて、研修・技術指導と能力評価を行うか、または資格取得のための支援を行うことを求める要件です。
整備すべき書面が明確なキャリアパス要件Ⅰと比べ、要件Ⅱは「目標」「計画」「実施」「周知」という段階を踏む必要があり、何をどこまで作ればよいのかが分かりにくい要件でもあります。本記事では、令和8年度の厚生労働省通知とQ&Aに沿って、要件の構造と作り方の手順を解説します。
本記事は、障がい福祉サービスの処遇改善加算を対象としています。介護保険サービスの介護職員等処遇改善加算とは、根拠法令や運用が異なる部分があります。
1. キャリアパス要件Ⅱとは 要件の構造
通知では、キャリアパス要件Ⅱは次の一・二をいずれも満たすこととされています。
| 要件 | 内容(通知本文) |
|---|---|
| 一 | 福祉・介護職員の職務内容等を踏まえ、福祉・介護職員と意見を交換しながら、資質向上の目標と、次のa又はbに掲げる事項に関する具体的な計画を策定し、その計画に係る研修の実施または研修の機会の確保をしていること |
| a | 資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供または技術指導等(OJT、OFF-JT等)を実施するとともに、福祉・介護職員の能力評価を行うこと |
| b | 資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料等)の援助等)を実施すること |
| 二 | 一について、全ての福祉・介護職員に周知していること |
ポイントは、aとbはいずれか一方でよいこと、そしてa・bのどちらを選んでも「資質向上の目標」と「具体的な計画」の策定は必要なことです。「資格取得支援(b)をしているから計画は不要」というのは、よくある誤解です。
2. どの加算区分で必要か
キャリアパス要件Ⅱは、従来から処遇改善加算の対象となっている障害福祉サービスでは、令和8年4月・5月の加算ⅠからⅣまで、および令和8年6月以降の加算Ⅰイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロ・Ⅲ・Ⅳのすべての区分で必要です。加算Ⅳを算定する場合でも、月額賃金改善要件、キャリアパス要件Ⅰおよび職場環境等要件とあわせて満たす必要があります。
なお、令和8年6月から新たに処遇改善加算の対象となった計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援については、算定要件の構造が異なります。これらのサービスが「処遇改善加算Ⅳの取得に準ずる要件」により加算を算定する場合には、キャリアパス要件Ⅱを満たす必要があります。
キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系の整備)の作り方は、別記事で解説しています。
3. ステップ1 職員との意見交換
計画づくりは、福祉・介護職員と意見を交換しながら行うことが通知上の要件です。
Q&A(問4-2)では、対面に加え、労働組合がある場合には労働組合との意見交換のほか、メール等による意見募集を行うなど、できる限り多くの職員の意見を聴く機会を設けるよう配慮することが望ましいとされています。
小規模な事業所であれば、ミーティングでの意見聴取や、個別面談・アンケートの活用が現実的です。意見交換を行った事実が後から分かるよう、面談記録や議事録などの記録を残しておくことが望まれます。
4. ステップ2 資質向上の目標を設定する
次に、資質向上の目標を設定します。Q&A(問4-3)では、事業者の運営状況や職員のキャリア志向等を踏まえて適切に設定することとされ、例として次の2つが挙げられています。
① 利用者のニーズに応じた良質なサービスを提供するために、福祉・介護職員が技術・能力(介護技術、コミュニケーション能力、協調性、問題解決能力、マネジメント能力等)の向上に努めること
② 事業所全体での資格等(介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師、保育士等)の取得率の向上
この例のとおり、目標は事業所全体の方向性を示すもので構いません。行動援護・居宅介護を行う事業所であれば、たとえば「強度行動障害支援の実践力向上」「介護福祉士の取得者を増やす」など、自社の支援内容と職員構成に即した目標を置くと、後の計画づくりが具体的になります。
5. ステップ3 具体的な計画(研修計画)を作る
目標を踏まえて、具体的な計画を策定します。Q&Aでは、この計画について様式や基準は特に設けられておらず、計画期間も賃金改善実施期間と一致していなくてよいとされています。また、無理な計画を立てて、かえって業務の妨げにならないよう配慮することとされています。
実務上は、指定基準で実施が義務づけられている研修(虐待防止、身体拘束等の適正化、感染症対策、業務継続計画に関する研修など)を年間計画の軸に置き、そこに自社の目標に応じた研修や外部研修、OJTを加えていくと、無理なく実態の伴う計画になります。
| 時期(例) | 研修内容(例) | 備考 |
|---|---|---|
| 4月 | 新任者向け支援手順・記録の書き方(OJT) | 新規入社者の受入れ |
| 6月 | 虐待防止・身体拘束等適正化研修 | 指定基準上の研修 |
| 9月 | 感染症対策・業務継続計画(BCP)研修 | 指定基準上の研修 |
| 11月 | 行動援護・強度行動障害支援に関する外部研修の受講 | 受講希望者のシフト調整 |
| 1月 | 接遇・コミュニケーション研修と個別面談(能力評価) | 自己評価と面談 |
| 通年 | 介護福祉士等の資格取得支援(受講費用の援助・シフト調整) | bの取組 |
上記はあくまでも例示です。研修の内容・時期・回数は、御社の目標・サービス内容・職員構成に合わせて作成してください。指定基準上の研修の種類・頻度は、サービスごとの基準をご確認ください。
なお、指定基準上の義務として実施する研修を、キャリアパス要件Ⅱの計画に位置づけることは可能ですが、研修を実施した事実だけで要件Ⅱを満たすわけではありません。事業所の資質向上の目標との関係を明確にし、具体的な計画に位置づけたうえで、aを選択する場合は能力評価まで行う必要があります。
6. ステップ4 a(研修+能力評価)またはb(資格取得支援)を実施する
計画に沿って、aまたはbの取組を実施します。
aを選ぶ場合
研修機会の提供または技術指導等(OJT、OFF-JT等)の実施に加えて、職員の能力評価を行います。
Q&Aでは、能力評価の手法として、個別面談等を通じて、職員の自己評価に対し、先輩職員・サービス提供責任者・管理者等が評価を行う方法が例示されています。こうした機会を適切に設けているのであれば、必ずしも全ての職員に評価を行う必要はないとされていますが、職員が自らの業務や能力を認識し、それが事業所の方向性の中でどう位置づけられるかを確認し合う趣旨を踏まえて運用します。
本格的な人事評価制度を新たに設けることまでが一律に求められているわけではありませんが、事業所の規模や研修・OJTの実施方法に応じて、適切な評価の機会を設け、記録を残しておくことが重要です。
bを選ぶ場合
資格取得のための支援として、研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料等)の援助などを実施します。
よくある誤解: b(資格取得支援)を選ぶ場合でも、資質向上の目標と具体的な計画の策定は必要です。「受講料を補助しているから要件Ⅱは満たしている」と考え、計画を作っていないケースは、要件不適合となるおそれがあります。
7. ステップ5 全ての福祉・介護職員への周知と記録
策定した目標・計画は、全ての福祉・介護職員に周知します。計画を職員がいつでも確認できる状態にする、ミーティングで説明するなどの方法が考えられます。
あわせて、実施の証跡として、意見交換の記録、資質向上のための計画そのもの、研修の実施記録(日時・参加者・内容)、受講の修了証、面談(能力評価)の記録、資格取得支援に関する記録(勤務シフトの調整、休暇の付与、受講料・交通費の援助等)などを残します。これらは指定権者から求めがあった場合に速やかに提示できるよう保管しておく資料です。
誓約した取組の進捗管理や記録の残し方は、期中管理の記事で解説しています。
8. 令和8年度の誓約による取扱い
令和8年度においては、申請時点で資質向上のための計画の策定等が完了していない場合でも、一定の要件のもとで、令和9年3月末までに計画を策定し、研修の実施または研修機会の確保を行うことを誓約する取扱いが設けられています。
従来から処遇改善加算の対象となっているサービスについては、この誓約による取扱いは、通知上、令和8年度特例要件を満たす事業所に限るとされています。
一方、令和8年6月から新たに対象となった計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援が「処遇改善加算Ⅳの取得に準ずる要件」により加算を算定する場合には、令和9年3月末までに計画の策定等を行うことを誓約する取扱いが別途設けられています。
いずれの場合も、誓約した内容は令和9年3月末までに実施し、実績報告書でその旨を報告する必要があります。誓約で申請できるかどうかは、必ず計画書様式および各指定権者の案内をご確認ください。
9. よくある不備とまとめ
① 計画がない(特にb・資格取得支援のみのケース)
資格取得支援は行っているが、資質向上の目標と具体的な計画を策定していないケース。a・bのどちらを選んでも計画は必要です。
② 職員との意見交換を経ていない
管理者だけで計画を作り、職員の意見を聴く機会を設けていないケース。
③ aを選んだのに能力評価をしていない
研修は実施しているが、面談等による能力評価を行っていないケース。aは研修等と能力評価の両方が必要です。
④ 周知・記録がない
計画は作ったが職員に周知していない、研修や面談の記録が残っていないケース。
キャリアパス要件Ⅱのポイントは、意見交換 → 目標 → 計画 → 実施(aまたはb) → 周知という流れを、記録を残しながら回すことです。指定基準上の研修を資質向上の目標・計画に適切に位置づけることで、日々の運営と切り離さず、実態の伴う形で要件を満たしやすくなります。
当事務所では、行政書士法人と社会保険労務士事務所を併設し、障がい福祉サービス事業所の処遇改善加算について、資質向上のための計画・研修計画の整備、キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅲの一体設計、計画書の作成・提出、期中管理・実績報告までを一連の業務としてご支援しています。
キャリアパス要件Ⅱの計画づくりにご不安がある場合は、お気軽にご相談ください。
本記事は、令和8年度の厚生労働省通知「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」および関連Q&Aに記載されている内容を整理したものです。本記事の研修計画の例はあくまでも例示であり、具体的な計画は御社の実態に合わせて作成してください。具体的な判断は、必ず最新の通知および各指定権者の案内をご確認いただくか、当事務所へご相談ください。
最終更新日:2026年7月16日






