処遇改善手当の新設・増額に伴う社会保険の随時改定について、固定的賃金の変動、3か月平均、2等級差、支払基礎日数、月額変更届の流れを示した図解

処遇改善加算による賃金改善で毎月の処遇改善手当を新設・増額したとき、見落とされやすいのが残業代(割増賃金)の計算基礎です。

結論から言えば、毎月支給する処遇改善手当は、割増賃金の計算基礎から除外される賃金には該当しないため、原則として計算基礎に含める必要があります。

手当を新設したのに残業単価を更新していないと、その差額分は割増賃金の未払いとなり、遡って支払う義務が生じます。本記事では、その法的な根拠と、支給方法ごとの整理、実務上の対応を解説します。

本記事は、障がい福祉サービスの処遇改善加算を前提としています。

割増賃金に関する説明は、労働基準法に基づく一般的な仕組みの解説です。個別のケースの判断に迷う場合は、労働基準監督署等にご確認ください。

1. 割増賃金の基礎から除外できる賃金は、7種類に限定されている

時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金は、原則としてその職員に支払われる賃金を基礎として計算します。

ただし、次の7種類の賃金は計算基礎から除外することとされています。

割増賃金の計算基礎から除外される賃金(労働基準法第37条第5項・同法施行規則第21条)
除外できる賃金(7種類) 留意点
① 家族手当 扶養家族の人数などに応じて支給されるものに限る。人数に関係なく一律に支給するものは除外できない
② 通勤手当 通勤距離・実費に応じて支給されるものに限る。実費等に関係なく一律に支給するものは除外できない
③ 別居手当 単身赴任などによる別居に対して支給されるもの
④ 子女教育手当 子どもの教育費に対して支給されるもの
⑤ 住宅手当 住宅に要する費用に応じて支給されるものに限る。費用に関係なく一律に支給するものは除外できない
⑥ 臨時に支払われた賃金 私傷病手当、結婚手当など臨時的・突発的なもの
⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 賞与など

重要なのは、この7種類が例示ではなく限定列挙であり、これら以外の賃金はすべて計算基礎に算入しなければならないという点です。

また、①②⑤のように、除外できるかどうかは手当の名称ではなく実質で判断されます。たとえば精勤手当や皆勤手当も、除外対象に当たらないため計算基礎への算入が必要です。

2. 処遇改善手当は除外対象に当たらない

毎月支給する一般的な処遇改善手当は、表1の7種類のいずれにも該当しません。したがって、原則として割増賃金の計算基礎に算入が必要です。

これは手当の名称を変えても同じです。

処遇改善加算の通知・Q&Aでは、賃金改善に用いる毎月の手当の名称は処遇改善手当に限らず、職能手当・資格手当・役職手当・地域手当等でも差し支えないとされていますが、いずれの名称であっても、実質が労働の対償として毎月支払われる手当である以上、割増賃金の計算基礎から除外することはできません。

3. 支給方法別の整理

処遇改善加算による賃金改善の支給方法ごとに、割増賃金への影響を整理すると次のとおりです。

支給方法別・割増賃金への影響
支給方法 割増賃金への影響
毎月の処遇改善手当(月額) 割増賃金の計算基礎に算入が必要。手当の新設・増額により残業単価も上がる
時給・日給への上乗せ 時給・日給の単価そのものが上がるため、割増賃金の単価も当然に上がる
賞与・一時金として支給し、臨時に支払われた賃金または1か月を超える期間ごとに支払われる賃金に該当する場合 割増賃金の計算基礎から除外される。名称が賞与・一時金でも、毎月分割して支給する場合など、実質的に月例賃金に当たるものは除外できない

賞与・一時金での支給が割増賃金の基礎から除外されるのは、臨時に支払われた賃金または1か月を超える期間ごとに支払われる賃金に該当する場合です。

名称が賞与でも、毎月分割して支払う場合や、支給額があらかじめ確定している場合(年俸制で賞与部分を含めて年俸額が確定している場合等)は、割増賃金の計算基礎への算入が必要とされています。

なお、労働基準法上のこの判断は、社会保険における賞与の取扱い(年3回以下は標準賞与額)とは別のものです。

4. 計算例:手当の新設で残業単価はいくら変わるか

月給制の場合、時間外労働1時間当たりに支払う賃金額は、労働基準法施行規則第19条に基づき、次の式で計算します(月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1か月平均所定労働時間数を用います)。

時間外労働1時間当たりの支払額 = (基本給 + 計算基礎に算入する諸手当) ÷ 月平均所定労働時間数 × 割増率

数字を当てはめた例で確認します。

(例)月平均所定労働時間160時間の正社員に、月額3万2千円の処遇改善手当を新設した場合

・新設前:算入対象の賃金が月24万円 → 240,000円 ÷ 160時間 = 1時間当たりの賃金1,500円 → 時間外労働1時間当たりの支払額1,875円

・新設後:算入対象の賃金が月27万2千円 → 272,000円 ÷ 160時間 = 1時間当たりの賃金1,700円 → 時間外労働1時間当たりの支払額2,125円

→ 時間外労働1時間当たりの支払額が250円上がります。月10時間の時間外労働がある職員なら月2,500円、年間で3万円の差になります。

上記はあくまでも例示です。

割増率(時間外は2割5分以上、月60時間を超える時間外は5割以上、法定休日労働は3割5分以上、深夜は2割5分以上)や端数処理は、法令の範囲内で各事業所の就業規則等の定めによります。

時間外労働と深夜労働が重なる場合は5割以上、法定休日労働と深夜労働が重なる場合は6割以上となるなど、複数の割増事由が重なる場合は割増率を合算します。

なお、ここでいう休日労働は、事業所の所定休日すべてではなく、原則として労働基準法上の法定休日に行った労働を指します。実際の計算は自社の賃金構成・所定労働時間に基づいて行ってください。

5. 見落とすとどうなるか

手当を新設・増額したにもかかわらず、給与計算ソフトの残業単価や賃金台帳の設定を更新していないと、更新までの期間の時間外労働について割増賃金の一部未払いが発生します。

未払いの割増賃金は遡って支払う必要があり、賃金請求権の消滅時効は5年(当分の間は3年)とされているため、長期間気づかないほど精算の負担が大きくなります。

処遇改善加算では月額賃金改善要件があるため、一定額以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当によって改善する必要があります。

このうち、処遇改善手当等の新設・増額で対応する事業所では、手当の変更に合わせて、残業単価も必ず更新しなければなりません。

手当の新設・改定と、給与計算側の単価更新をセットの作業として運用に組み込むことが重要です。

6. 賃金規程での明確化

トラブルと計算誤りを防ぐには、賃金規程の割増賃金の条文で、計算式を「(基本給+諸手当。ただし、労働基準法第37条第5項および同法施行規則第21条に定める賃金を除く。)÷月平均所定労働時間数×割増率」のように定め、法定の除外賃金以外は算入する、という法律上の構造を条文で示したうえで、現に支給している処遇改善手当(各種加算手当)・資格手当・役職手当等が計算基礎に含まれることを具体的に明記する方法が有効です。

算入する手当だけを列挙する方式は、将来新しい手当を追加した際に、条文に記載がないことを理由に算入が漏れるおそれがあります。

こうしておくと、給与計算の担当者が変わっても算入漏れが起きにくく、職員から計算根拠を尋ねられた際にも規程を示して説明できます。

処遇改善加算では、職員からの賃金改善に関する照会に分かりやすく回答することが求められているため、この点でも規程の明確化は有効です。

7. まとめ

  • 割増賃金の計算基礎から除外できる賃金は7種類の限定列挙であり、それ以外はすべて算入が必要
  • ・毎月支給する処遇改善手当は法定の除外賃金に当たらず、原則として割増賃金の計算基礎に算入する。名称を職能手当・資格手当等に変えても同じ
  • ・時給・日給への上乗せは単価そのものが上がるため、割増賃金の単価も当然に上がる
  • ・賞与・一時金での支給は、臨時の賃金等に該当する場合、計算基礎から除外される(支給額があらかじめ確定しているものは算入が必要)
  • 手当の新設・増額と残業単価の更新はセットで行う。更新漏れは割増賃金の未払いになる
  • ・賃金規程の割増賃金条文は、法定除外賃金を除く包括的な定めと、現行手当の明記を組み合わせて設計する

処遇改善手当の設計は、加算の要件だけを見て決めると、残業代や社会保険といった労務・給与計算側の影響を見落としがちです。

手当の設計、賃金規程の整備、給与計算の運用までを一体で管理することが、未払いリスクを防ぐ確実な方法です。

当事務所では、行政書士法人と社会保険労務士事務所を併設し、障がい福祉サービス事業所の処遇改善加算について、手当の設計・賃金規程の整備から、給与計算・残業単価の管理、期中管理・実績報告までを一体でご支援しています。

処遇改善手当と割増賃金の取扱いにご不安がある場合は、お気軽にご相談ください。